『パビリオン・トウキョウ2021』は、『Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13』の一つとして開催されている自由で新しい都市のランドスケープを提案するというイベントです。世界が大きく変化しようとしているコロナ禍の夏、日常には存在し得ないパビリオンが東京の街に出現することによって、至る所で再開発が進む大都市・東京の新しい物語を作ることを目指しているそうです。
パビリオントウキョウは渋谷・青山周辺に複数の作品があったので、渋谷界隈で展示のあった『水の波紋展2021』(別記事にて紹介しています)と同日に回りました。パビリオン・トウキョウ2021は大きなアートが全部で9作品、真夏の東京に67日間展示されました。
パビリオントウキョウ2021作品紹介
草間彌生 「オブリタレーションルーム」
こちらの作品は渋谷区役所第二美竹分庁舎1Fの屋内展示です。事前予約制ですが、結構空いているので、Artistickerのアプリから当日予約が簡単にできました。
展示場所の部屋はもちろん、部屋の中にある物全てが真っ白に塗られた白の空間です。受付でカラフルな丸いシールのシートを受け取り、自由にシールを張って空間をドットで埋めていくことで”部屋が消失していく”という参加型インスタレーションでした。
私が行ったのは8月20日だったので、部屋がドットで5割以上埋まっていたように思います。最初に入った人は真っ白な世界にトッドを張る行為をどう感じたのだろうなどと思いながらシールを貼りました。渋谷での用事ついでに部屋の消失具合を確認したくなり、9月1日にもこちらのインスタレーションに参加しました(笑)
近づいてミクロで見るとシールで絵を描いていたりと貼り方に個性がありますが、部屋全体をマクロで見るとその個性は失われ、ドットで浸食された部屋の家具・壁・床もその役割を見失ったように一つに同化、つまりそれぞれの存在が消失し、一つのドットという空間になりつつあるように感じました。コロナ禍なので想定より来場者が少なく、本来なら、部屋はもっと消失していたのでしょう。来場者にシールのシートを1枚ではなく、2-3枚渡しても良かったのかなと思いました。
藤原徹平 「ストリートガーデンシアター」
旧こどもの城前にある、たくさんの植木鉢で飾られたアスレチックのような作品。所々に椅子が置いてあるので、座るとまた違った景色に出会える。
作品を登っていくと、段々と空が近くなり、都会のビル群の中の突如開けた空と遭遇。こんな立体的な庭があったら楽しそう。
平田晃久 「Global Bowl」
国際連合大学前にドンっと置いてあるフルーツの籠のような作品。
作品の中をくぐったり、座ったりできます。反転する幾何学で作られており、捻じれたカーブが絶妙に繋がっていて複雑な形をしていました。
会田誠 「東京城」
明治神宮外苑いちょう並木入口の左右にある石組みに築かれた、ブルーシートと段ボールという頼りない素材で作られた東京城。
先日、アートフルワールドというBSのテレビ番組でこの石組みを使用することは前例のないことで、使用許可を取るのに2年かかったと和多利さんがお話しされていました。頼りない素材で屋外展示を作ることに対して、「やってみなければわからない、一か八か作ってみる」とコメントしていた会田さんもですが、前例のないことに臆病な日本で2年もかけて許可を取った和多利さんもすごいです。まずやってみる、とりあえずやってみる、忘れないでいたいこの精神。
ブルーシートの城は、雨風に飛ばされないように作品が覆われていると勘違いしてしまったほどにブルーシートでした。段ボールは意外にも馴染んでいてよく見たら段ボールだ!となりました。かっこいい作品でした。
真鍋大度 + Rhizomatiks(特別参加) 「“2020-2021”」
ワタリウム美術館前の道路を挟んだ空き地にある作品、「AIが生成する狂喜乱舞する東京の姿」だそう。
事前に見た写真ではもう少し色がカラフルでRhizomatiksなので期待していたのですが、白一色で、期待していたものとは少し異なりました。デイスプレイを流れてくるAIが生成したデータがディスプレイに被さっているフレネルレンズを通すことでぼやけて幻に見えるというコンセプト。ディスプレイに流れてくる文言が辛辣だったりふざけているように感じるものだったり、どのようなデータを収集したのかはわかりませんが、偏っているなと思ってしまいました。
藤森照信 茶室「五庵」
茶室の中に入るには、ワタリウム美術館の受付で当日予約をする必要があります。五庵はワタリウム美術館から徒歩10分くらいの場所にあります。
まず、見た目がなんとも可愛い。入口は小さく丸いので、想像ですが森の中にある小人の家を大きくしたイメージです。
茶室には別世界性が必要というコンセプト。また、「フジヤマ、ゲイシャ、ニンジャ」といった外国人が日本に持つイメージが変わらないことへの苛立ちへ向けたアップデートだそうです。日本古来からある茶室はなぜかずっとその形を変えていません。変える必要がなかったからか、変えようとしてこなかったからか。そこで、茶室のアップデートをしようと現代の茶室を建築されたそうです。梯子を登り、せまいにじり口から出て見る地上より高い世界は別世界。
確かに、梯子を登ると新国立競技場が目の前に!古来からある日本の茶室しか知らないという固定観念があったので、目の前の開けた窓から見える世界は、新国立競技場をこの視点で見たことがなかったということもありとても新鮮でした。実際にお抹茶をいただけたらほんわかした幸せな空間だろうな~なんて思ったり。
ワタリウム美術館での東京パビリオン2021に関する展示
ワタリウム美術館では、作品の模型や設計図の展示、製作者の意図がわかるビデオが放映されていました。製作者の意図を知って作品を見ると自分とは解釈が違って、製作者が想う作品の姿が見えてきていいですね!
以下の作品は、代々木公園(原宿駅)、九段下、浜離宮にあったので別々に回りました。
藤本壮介Cloud pavilion(雲のパビリオン)
原宿駅から近い代々木公園に雲の建築。「外観があるが壁はなく、しかし内部空間は存在する。…建築的な何かがあるように感じさせる存在が雲」
雲を建築物として考えたことはなく、やはり建築家的視点で物事を捉えている点が、我々だったら雲をメディアアートとしてどう表現するだろうかと考えさせられました。また、水滴の集合体が雲という自然現象で、一定の形はないにも関わらず、絵に描くと多くの人がこの作品のようにモコモコとした雲を描く。私も雲といえばこのような雲を描きます。モコモコしていて触れそうで美味しそうな雲、いつからか植え付けられた雲の形の方に疑問を持ちました。晴れた日に見たら青空に映えるだろうなと、小雨が恨めしくもあり、曇り空でも可愛い作品でした。
石上純也 「木陰雲」
武道館近くの九段下の坂を登りきると「九段下に昭和2年、実業家の山口萬吉によって建てられた古い邸宅」、九段ハウス(Kudan house)があります。
九段ハウスの庭に夏季限定で木陰雲が設計・建築されました。歴史ある風景に溶け込むように杉の木を炭化させて、新築だけれどもはじめから古い建築。真っ黒な木はやはり歴史に溶け込むのだろうか。新しさを感じさせないことで違和感を生まず、歴史のある家や庭の雰囲気を邪魔することなく、純粋に素敵な庭を楽しむことができた。雨に濡れた木々は艶めいて緑深く、空は木陰雲で切り取られ都会の真ん中にいながら都会を感じさせず、鈴虫の声や雨音が優しく心地良い。都会の喧騒とは異なるゆったりと流れる時間だった。晴れた日の朝は気持ちいいだろうなー。
妹島和世 「水明」
日が差してきた最終日に汐留の浜離宮恩賜公園に数年ぶりに行ってみました。昔、浜離宮が見えるビルで就職の面接を受けて、絶望した足で浜離宮公園にたどり着いた記憶が…。こんなに広い公園だったなんて知りませんでした、青空の公園はいいですね!
入口からすぐのところに水明を発見。水墨画で描かれるようなくねくねと曲がった川は、表面がガラスか鏡でできているため日の光が反射してキラキラと光ります。浅く水が張られているように見えますが、実はゆーっくりと流れているということ。芝生の中に入れず、近くで見ることはできなかったので流れているのかよくわかりませんでしたが、公園の緑にキラキラ光るブルーの川が生えて綺麗でした。また、川の上に造花の黄色やピンクの菊と本物の草が植えられており、本物の草は約2か月間に及ぶ展示でゆったり流れる川の上に自生しているように見えました。
余談
水の波紋展、パビリオン・トウキョウ共にパンフレットや地図がとにかくわかりやすい!東京ビエンナーレと大きく違うところ。
パンフレットはクルリンパすれば英語版になるし、ポケットサイズで小さな鞄にも入る!当然だけど誤植はないし、地図通りに行けば作品にすぐ出会える、ウェブもわかりやすい。東京ビエンナーレが過酷だったせいか、パンフレットだけで感動してしまいました。
これにて、我々のパビリオン・トウキョウ2021散歩はコンプリート!です。普段の生活圏ではあまり行かない東京の姿を歩いて回ることで、少しは知ることができたように思います。東京の街に突如、大きな不思議な建築物が出現するという試み。とても楽しむことができました。イベント終了後、すぐに撤収されてしまうのかな…、大きな建築物(パビリオン)がなくなってしまうのは少し寂しいです。東京の街は至る所で再開発が行われ、目まぐるしく街自体が変化をしているので、面白く不思議な建築やアートで街に変化をもたらす試みも東京という街だからこそ合っていると思いました。