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東京都現代美術館「MOTアニュアル2020 透明な力たち」に行きました

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先日、東京都現代美術館で開催中の「透明な力たち」展に行ってきたので、写真を交えて現地レポを書いてみようかと。

東京都現代美術館の外観
美術館の入口

透明な力たち

普段は目に見えない様々な力とそのメカニズムを、アーティスト達が独自の解釈で表現していく作品を展示した企画展で、実験や工作装置のようなメディアアートから、バイオアートやAI・機械学習を駆使したアート、更には社会実験のようなものまで現代だからこその多様なアート作品が展示されています。
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mot-annual-2020/

「透明な力たち」メインビジュアル

もとよりメディアアーティストを目指して作品を制作してきたので、まさに現代的なバイオテクノロジーやAIを駆使した作品もあって大いに楽しめたのですが、一方で、ワークショップを通じた「常識」の再構築、あるいは現代技術による「オカルト」への考察などといった、一見すると最先端技術やアート&サイエンスとは無縁のような作品もあり、現代アートの多様性がうかがい知れます。

片岡純也+岩竹理恵

2人組のアートユニットで、公式サイトでは、以下のように紹介されています。

電球や食器や本などの日用品に、物理的エネルギー(重力、風力、磁力等)を加えて本来の役割とは異なる動きを見せるキネティックな作品と、切手や博物辞典など多様な素材から切り抜いた断片を組み合わせてできた繊細なコラージュ作品からなるインスタレーションを展開する。

透明な力たち 作家プロフィールより

私たちが制作しているメディアアートと制作物の方向性や使う技術が近いところもあり、ついついどう動いているか気になって推測してしまいましたが、電子回路と機構を駆使して不思議な動きを見せる作品にはつい魅了されてしまいます。

回る電球
バネや砂鉄は実際に動きます
「メメント・モリ」を思わせる骸骨

個人的に好きなのは、ピンホールカメラのような装置に撮影用のリングライトの光を通して人の形を見せる「0から1へのアナログ変換」です。リングライトは一定の速さで搖れ動いており、正面を向くと0、横を向くと1の形となって、カメラの中で0や1に変化しながら見えるわけです(画像ではわかりづらいですが)。
今なら液晶ディスプレイで簡単に表示もできますが、機械的な動作と光学装置による表現はディスプレイの表示とは異なる味わいがあるように思えます。

0から1へのアナログ変換

清水陽子

バイオアーティストで現在はアルスエレクトロニカ・フューチャーラボの研究員としても活躍されている方です。プロフィールは以下の通り。

自然、生命、宇宙のメカニズムをテーマに、微生物、細胞、DNA、有機物などのミクロの世界をはじめ、植物、自然、地球全体におけるマクロの現象まで、その美しさを可視化する作品を制作している。

透明な力たち 作家プロフィールより

微生物や細胞から宇宙といった自然科学全般を扱うアートとあって、さながら科学実験といった様相も見せてきます。科学的な知見があってこその作品群は、普段私たちが目に留めない、気にしないような周囲にも審美的なものや現象があふれていることを伝えてくれているように思えてきます。
バイオアートにも手を出してみたい…。

SPACE ART DNA CAPSULE
バイオスピーカー

植物の葉をあたかも絵や写真のように変える印刷(?)技術が好きですね。
特に写真とは化学処理は施して現像するという点では共通しているのに、無機物の化学反応という写真と有機物の活動という光合成の二者が相対しているようで面白かったです。

Photosynthegraph
Photosynthegraph

Goh Uozumi

AIや機械学習などに焦点を当てた作品を制作しており、以下のように紹介されています。

三上晴子のもとでMedia Artを学び、自律分散組織、プログラマブル・マネー、機械学習、監視社会、クリエイティヴ・コーディングなどの「文明における自動化の動向」を考察する作品を発表している。

透明な力たち 作家プロフィールより

作家はインタビューで、文明が高度になって自動化していき、質量をもたない「情報」が経済的な価値を持つ現代社会について作品を通じて考察したいと語っており、仮想通貨やその内部処理を視覚化したもの、AIでカメラに映った人物を著名人や権力者の顔に置き換えるもの、さらに展示会場と連動した作品も展示されています。
AIや機械学習をアートに取り入れる作品も増えていますが、情報技術の発展が人類社会にもたらすものについて考えさせられます。

Virtual Virtual Coins
誰でも著名人になれるスタジオセット。演者も現場にいる必要がない

中島佑太

人々が持っている「当たり前」を日常とは異なる視点から問い直し、ワークショップや遊び的な活動を通じてその再構築・書き換えを試みる。「1人でやらない、みんなでもやらない」という彼のモットーが示すように、予測不可能要素を受け入れるプロジェクトは一見ゆるさを持っているが、家庭内ルールから公共の在り方、社会的分断などの題材を内包し、ルールやタブーといった身の回りのテーマに切り込んでいる。

透明な力たち 作家プロフィールより

新聞紙で築かれた壁を介して、人々が紙飛行機でルール作りと修正を行うワークショップのような作品などを展示されていました。
最先端技術や科学現象を活かしたアート&サイエンスとは違う方向性で、ほかの作家とは異質の雰囲気でした。社会的なルールを壁越しの人と考えるという作品は、資源としての情報とは異なりますが、無形的なものを扱うという意味では先ほどのGohさんに通じる部分もあるかもしれません。

久保ガエタン

トリを飾るのはこの方。

超常現象や自然科学的に知覚できないもの、精神分析や社会科学の中の見えない関係性を「オカルト(隠された存在)」と総称し、独自の装置を通して考察を続ける。合理的社会の中で抑圧された無意識の欲望や不安が噴出し人々を動かす瞬間を、回転、破裂、振動などの激しい運動エネルギーを伴う装置と、淡々と語られる作家のナラティブによって再現し、鑑賞者の身体感覚に強く訴えかける。

透明な力たち 作家プロフィールより

映像と独自の装置で構成されたインスタレーションは、現代科学で説明や証明ができない超常現象を、歴史を通じて淡々と説明しながら、最後に装置の仕掛けを作動させることで今この場にリアルタイムで起きているかのように表現していました。聴診器、オーディオアンプ、スピーカー、振動発電(?)とランプなど装置の中身は特殊なものではありませんが、あるはずがないと普段思い込んでいる「オカルト」を具象化する手法は見事だと思いました。

おまけ

おまけというのは何ですが、石岡瑛子さんの生涯に渡るアートワークを展示する初の大規模な個展も同時開催しています。初期の資生堂インハウスデザイナー時代に携わった広告から、渡米してからの映画やCDジャケットに衣装、そして目玉と思われる「落下の王国」などターセム・シン監督作品などの衣装が展示されています。最期まで枯れることのない情熱を表したような独創的でエネルギッシュな衣装の数々には思わず目を見張ることでしょう。
なお、内部は撮影禁止だったので、入り口の写真を載せておきます。

展示は明日の14日まで

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